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映画の衣装の色~赤~

<赤>
赤という字の由来をたどると、「大」と「火」で火が大きく燃え上がる様子をあらわしたものだといわれています。また、英語のredの語源はサンスクリット語で「血」に関係したrudiras(ルディラス)であったろうといわれているそうです。このように赤色は火や血を象徴するものとしてとらえられることが多く、そうした象徴が発展して「生命力」、「元気」、「攻撃的」、「勇気」、「大胆」、「情熱」などといったイメージで語られます。人類学者のバーリンとケイは赤色を「人類が最初に意識した色」とし、生命と密接なつながりをもつ色であるとしています。

映画の衣装においても赤の登場回数は非常に多く、インパクトが強いぶん、より象徴的な使われ方をする色の1つです。

1) 情熱と刺激、活気を表す赤
色の象徴主義はフランコ・ゼフィレッリ監督の『ロミオとジュリエット』によっても用いられています。ジュリエットの実家であるキャピュレット家は新興の商人で「成金」のイメージが付与されています。

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街中で敵を見るやいなや喧嘩をふっかける「好戦的」な彼らの服の色はそれにふさわしく、「刺激的」な赤、黄、オレンジが配されています。

ジュリエットの最初の登場場面での衣装は、14歳という彼女の輝くような若さと活気を象徴するかのような鮮やかな朱赤のドレスです。

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キャピュレット家とはの仇の関係にあるモンタギュー家の息子であるロミオは、キャピュレット家の宴会に身分を隠して参加し、赤いドレスを着たジュリエットの美しさに一目惚れしてしまうところからこの恋愛悲劇は始まります。

興行的にはあまりヒットしませんでしたが、豪華な女優陣で話題になったロブ・マーシャル監督のミュージカル映画『ナイン』(2010)は、昔の栄光に苦しめられスランプに陥った映画監督グイドと彼をとりまくさまざまな女性の愛憎を描いています。

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彼の愛人カルラは、グイドが新作の製作のプレッシャーから避暑地のホテルへ逃避行するのを追いかけてやってきますが、駅に降り立った彼女の衣装は帽子から毛皮のショール、靴まで全身が赤で統一されています。そのけばけばしさにグイドは辟易するものの、カルラはお構いなしです。好きな男性のためならどこまでも追いかける女性の情熱を体現したコーディネートともいえますね。

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2) 確固たる意志、自信を表す赤
断固たる意思や決断、自信を表す色としても赤は用いられることがあります。

スティーブン・スピルバーグ監督の『カラー・パープル』(1985)はある一組の黒人姉妹を主人公とし、黒人女性の自立の物語を描いた物語です。

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幼いころから「醜い」と父親から言われつつ性的虐待を受け、半ば強制的に結婚させられた夫からも日常的に暴力をふるわれる長女のセリーは引っ込み思案な性格。
大の仲良しである妹ネッティは内向的なセリーとは反対で、才気あふれ、自分の思ったことを素直に表現する性格です。

冒頭の紫のコスモス畑のシーンで姉のセリーが暗い色調の洋服を着ているのに対し、明るい色のワンピースを着て、真っ赤な麦わら帽子をかぶるネッティの姿が対照的に描かれています。

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さまざまな困難が2人を襲い、大好きな妹との仲を引き裂かれるセリーは長く暗い、出口さえ見えない忍従の生活を送ることになります。しかしながら、夫の愛人である、女性歌手のシャグとの奇妙な友情関係などを通じて次第に人間としての自信と未来への希望を獲得していくセリー。

セリーが家を飛び出し、職業婦人としても成功して故郷へふたたび帰ってきたときに彼女が身に着けている赤い手袋が強烈なインパクトを放っている。黒い喪服姿の紅一点となる手袋の存在。忌まわしい思い出のある父親の葬式に出席するための帰郷が、その過去から彼女はすでに解き放たれ、自信をもって前に進んでいることが赤い手袋に象徴されているようなシーンとして描かれています。

フランス映画で日本でも大ヒットした「アメリ」も赤が象徴的に使われている映画です。

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空想癖があり、いたずらをして他人を幸せにすることに喜びを見出す女の子アメリが好きな男性と出会い・・・というコメディ映画です。劇中に登場するアメリの部屋は基本、すべて真っ赤。洋服も赤い服をよく着ている点で目をひくのですが、これはこれはまさにアメリの内に秘めたる炎を表現しているといえるでしょう。

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外の世界に飛び出していきたい、自分の殻を打ち破っていきたいのだ、という強い意欲が赤で表現されています。

ただ、その意欲を外の世界では実際はうまく表わすことができずに、手紙の偽造とか写真、ビデオテープといった間接的なものに頼ってしまう。さらには住居不法侵入あるいはストーカーまがいのことまでしでかしてしまうのです。そして決まってそういう時に着ているのが赤い服。

赤というのは、1番注意を引く色でもあります。赤い服というのはこの映画では、自分から目立ちたいあるいは自分から主体的に動いているというプラスの思考を端的に表わしているのかもしれません。


3) 情欲と怒りを表す赤
赤は情欲や怒りを象徴する色としてもしばしば映画に登場します。

チャン・イーモウ監督の『HERO』(2002)で剣士・無名によって語られる最初のストーリーは「赤の世界」です。

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秦王暗殺を企てていた男女の刺客、残剣と飛雪をいかに自分が倒したかという話を秦王の前で語る無名。いわく、恋人同士でありながらも微妙な愛憎を秘める2人の関係、さらに残剣の女弟子である如月は密かに残剣へ恋慕の情をもっているため、そこには「嫉妬」の要素も含まれます。これら男女の愛憎がすべて赤色の衣装とセットで展開されます。

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ちなみに衣装は日本人のワダエミが担当。赤だけで52色用意されているそうです。登場人物の性格によって微妙に異なる赤色のニュアンスも興味深いです。

サム・メンデス監督の『アメリカン・ビューティ』(1999)では娘の同級生に恋する中年男性の悲哀がコミカルかつブラックに描かれていますが、主人公の性的ファンタジーがバスタブいっぱいに浮かぶ赤いバラの花びらと結びつけられ、表現されています。

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黒澤明監督の『七人の侍』(1953)は白黒映画なので厳密に色の分析はできませんが、焚き火の炎が1人の若い侍と百姓の娘が互いに惹かれあい、愛し合うシーン、そしてそれが娘の父親に見つかり、激しい怒りにふれてしまうシーンで象徴的な役割を果たしているといえます。そしてその炎はまさに赤い色。


次回はロマンチックカラーのピンクについて考察してみます。

by lecolorist | 2013-09-18 12:27 | 色の徒然